庄内協同ファームだより

トップページ > 庄内協同ファームだより > 庄内協同ファ-ムだより 2002年8月 発行 No.88

有難くない贈り物

藤島町  志藤 知子

災難は思わぬ所でポッカリと口をあけて待っている。
夫が農作業中に骨折したのは、春作業真っ只中の4月15日、春野菜を植え付ける準備をしていた時のこと。自家製の豚ぷん堆肥を畑に入れようと今春購入したばかりの機械を使って運搬中のことだった。
傾斜のある進入路に向きに変えた途端、バランスが崩れて、後の両輪が浮き上がった。立て直そうとして操作している夫をハラハラしながら見ていた私の目に次に映ったのが、車体をグラグラと揺らしながら暴走する機械。ほんの数秒の事だったが、何かが起こった事を直感させ、走り寄る私に、夫は、“離れろ!!”と言う。ようやく止まった。顔を蒼白にしてゆがめ痛みをこらえている様子の夫に“どこをぶつけた?どこが痛い?”と矢次早に問う私。苦痛に顔をゆがめ、機械から降りた夫は1、2歩歩くと腰をおろし、右足の長靴を脱ぎながら“やってしまった。”とつぶやいた。

事態を察した私は、家に駆け戻り、母に事情を告げると、着替える余裕もなく、保険証を握りしめ、堆肥の臭いをつけたまま、夫を病院に運んだ。救急の待合での時間の長かったこと長かったこと。結果は右足の甲の骨折。添木をして、松葉杖で現れた夫は、私に向かって苦笑した。
まだ半分を残していた稲の種蒔き、これからが忙しい本田の準備。そして田植。先の仕事を心配する私に“大丈夫、何とか乗切れる。”と励ましたのは、夫のほうだった。“そう、悲観的になるな。”と言いつつ、自分自身を元気付けていたのかもしれない。

あれから4ヶ月。どうなることかと思った春作業も、周囲のたくさんの人達の暖かい応援のおかげで、どうにか乗切ることができ、田んぼも、畑もそして豚舎の方も何事もなかったかのように、回っている。夫の足も、今ではすっかりと腫れも引き、以前にはいていた靴が、スムーズにはける程に回復した。二階の寝室にも上がれず、二人で階下の子供の部屋に寝泊りした一ヶ月間が今では夢のような感じだ。

8月下旬、今、庄内平野は、こごみ始めた稲穂が風に揺れて、とても美しい。黄金色になりきる前の、活力に満ちた今の時期の風景が私は好きだ。
“春の事件”があっただけに、今年のこの恵みはひとしお嬉しく、健康で働ける有難さが身に沁みる。やっぱり今年も早々に思わぬプレゼントをもらってしまった。
毎年、あの手、この手のプレゼントです。

スケッチ

鶴岡市  佐藤 清輔

とある枝豆農家の息子は、家業も継がずに高校生とじゃれあっている。
休みの日に実家に戻り家の枝豆収穫の手伝いをする中でつれづれなるままにこんなことを考えた。

物言はぬ枝豆はどれほどのことを人に伝えているのだろうか?
枝豆に口がついていたらいいと思った。
「オレは明日あたりが食べごろだ」
「私にもっと水を飲ませてください」
「体の調子がおかしいから何とかしてくれよ~」
それに対して口のついている高校生はよくしゃべる。
ああいえばこういう「だって~」「っていうか~」と口数の減らない高校生と何もしゃべらない枝豆とどちらが扱いやすいのか、一概には言えない。

天気の良い日悪い日にかまわず毎日小さな部屋に何人も詰め込まれて聞きたくもない話を聞いて育つ子より、天と地の恵みをいっぱい体に浴びて育つこのほうが、自然であり、すばらしいと思うがそのすばらしい子を育てていくのは小さな部屋で育った子であるということがおもしろいところだなあと思った。
生徒にならば「思い」を直接届けることが出来る。しかし、百姓は「思い」を枝豆やその他の農産物にこめてお客様に届なければならない。
本当に難しくてだからこそやりがいがあることだ。

今年は雨降りの日に手伝った記憶しかないといってもいいくらいだった。
私が畑に出ると雨が降ってくる。
それが苦でなかったのは自分がこの「だだちゃ豆」と両親、家族に育てられたという感謝の思いを感じているからだ。

そして最後に父と母へ
体に気を付けてください。何がなくても健康であれば一応は幸せだし、やっていけます。そしてよく考えるとそれが一番幸せなのかもしれないと思います。

愚息 清輔

※清輔君は代表理事佐藤清夫の長男で別の町で現在高校の教師をしています。
   休みの日は、家に戻り農作業を手伝っています。

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